ただ、この場面で坂本は銀行員を辞める理由について半分しか本当のことを言っていないように見える。過大な借金は企業を滅ぼすとして行田支店の支店長がこはぜ屋に融資見送りを告げていた頃、前橋支店にいた坂本は倒産する町工場を訪ねていた。倒産の原因は、銀行が主導した過剰な設備投資が財務を圧迫したため。町工場の社長が「坂本さんに担当が代わってから、本当によくしてもらってありがとうございました」と、彼に深々と頭を下げたことから、異動先でも坂本はとことん親身になって、融資先の企業に肩入れする姿勢を貫いていたことがわかる。
思わず「まだ何か手が……」と言いかけた坂本。それを制するように、社長は「もう勘弁してくださいっ」と悲痛な声を上げた。続けて、「どうせ見捨てるなら、もっと早く見捨ててほしかった」と絞り出すようにうめいた。そうすれば損失が大きくなることもなく、会社をたたまずに済んだかもしれないというのだ。この時、坂本は虚を突かれたような驚きに満ちた顔をしていた。温情を持って融資先に肩入れするやり方が正しいと信じてやってきたが、それが間違いであったことに気付かされたからだ。結果的に、数字を見て適正に判断するという坂本の後任のこばせ屋融資担当・大橋浩(馬場徹)や、「貸すも親切、貸さぬも親切」と言い切る行田支店長・家長亨(桂雀々)のほうが銀行員として正しかったということになる。これは坂本にとってもショックであったに違いないが、風間演じる坂本を“正義の銀行員”としてとらえていた視聴者にとっても、なかなかの衝撃である。
坂本は、自身を通せば、すぐにでも1億円を投資できるかのような見得を宮沢に切っておきながら、結局「さすがに1億円は厳しい」とぬけぬけと伝えに来たのも「印象が悪い」と感じた視聴者は多いよう。しかも、代案として持ち込んだのはアウトドア用品メーカー「フェリックス」によるこはぜ屋の買収話。フェリックスが本当に手にしたいのはこはぜ屋の技術ではなくシルクレイであることは明白で、これまで一貫してこはぜ屋を応援してきた坂本が一転して敵対する側になってしまったようにも思える。好人物に見えていた坂本のダメな部分が続出し、ストーリー自体もこはぜ屋のピンチばかりで「スカッとするところがないという声も上がっていた。
風間は悪役を演じることも少なくないだけに、ドラマ序盤ではファンから「今回はいい人の役で良かった」との感想が上がっていたが、結局そうでもなかったというオチになってしまう気配が。このままでは「チーム陸王」としての坂本の存在意義も怪しくなってくるが、今後のストーリーで挽回できるだろうか。
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