旧ジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏(2019年に死去)の性加害問題を受けて、23年10月17日付で社名を変更した「SMILE-UP.」。“ジャニーズ”の看板を下ろしてから2年が経過したが、そんな中で被害者への補償は着実に進んでいるようだ。
■旧ジャニーズ性加害問題、SMILE-UP.の補償対応に企業コンサルタントは「比較的順調」
過去には元所属タレントが“暴露本”を出版するなど、長きにわたって疑惑が浮上していたジャニー氏の性加害疑惑。元ジャニーズJr.(現ジュニア)の岡本カウアンが、22年11月にYouTubeの動画内でジャニー氏による性加害を告発し、翌年3月にはBBC(英国放送協会)がドキュメンタリー番組『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル(原題:Predator:The Secret Scandal of J-Pop)』を放送したことで、長年蓋をされてきた暗部が明るみとなった。
こうして大きな社会問題へと発展した中、事務所側は23年9月7日に記者会見を開き、同5日付で社長を引責辞任した藤島ジュリー景子氏が叔父であるジャニー氏の性加害を認めた上で被害者に謝罪。会見には、新社長に就任した少年隊・東山紀之も同席し、“法”を超えた救済や補償が必要になると述べ、業界内外から具体的にどう対応するのかが注目された。
そんな中、同社は10月2日に2回目の会見を行い、同17日付で「SMILE-UP.」(以下、SU)に生まれ変わり、被害者への補償業務に専念すると説明。マネジメント業務撤退に伴い、タレントの受け皿となる新会社・STARTO ENTERTAINMENT(以下、STARTO)が設立され、24年4月10日に本格始動したことは周知の通りだ。
なお、SU社は補償の進捗状況を公式サイトに逐一アップしており、今年10月15日には「現時点までの被害補償の状況(2025/10/15)とお願い」(原文ママ、以下同)を公開。被害補償の受付開始後、被害者救済委員会のもとには同日時点までに「合計1033名」から補償申告が寄せられたというが、「そのうち234名の方は、複数回のご連絡を試みてもご返信がない状態」だといい、「これらの方を除いた799名のうち797名の方(約99%)について、被害者救済委員会から補償内容を通知(573名)、または、弊社より補償を行わない旨をご連絡(224名)しました」と伝えている。
その224名は、提出した資料の検証と代理人によるヒアリングの結果、「在籍および被害のいずれの事実も確認できなかった方」だったといい、「被害者救済委員会から補償内容を通知した方(573名)のうち、566名(約99%)の方から補償内容にご同意いただき、うち564名(約98%)の方に補償金をお支払いしました」とも報告。15日の段階で、2名とは在籍実績の確認や、被害者救済委員会によるヒアリングなどの手続中であることなども記していた。
こうした補償対応のスピード感について、All About「組織マネジメント」ガイドである大関暁夫氏に話を聞いた。
「私は法律の専門家ではありませんが、23年10月に『被害者救済委員会』を設立してから丸2年以上が経った今、約98%の方への補償金の支払いが完了したということで、補償対象者の人数から考えて比較的順調に進んできていると思います」
■SMILE-UP.、問題の“総括”で「会見を行うことが望ましい」ワケ
なお、SU社の補償対応については、「朝日新聞」が9月24日、「旧ジャニーズ問題 スマイル社CCOが語った補償と救済の現在地」という記事をウェブ版に掲載。その中で、SU社で人権尊重や法令順守に取り組むチーフコンプライアンスオフィサー(CCO)を担当する山田将之弁護士は、プライバシーに配慮しながら、被害認定された人たちが被害を受けた年代、内容を公表するかどうかインタビュアーから問われると、「何らかの総括をする可能性はあると思っていますが、それがどういう形になるのかについては、今の段階では具体的に考えていません。ただこれだけのことがあったわけですから、それが最終的にどうなったのかについては、ご説明する必要があると思います」との考えを明かしている。
前出の大関氏も、同様に「社会的にも大きな問題になったということから考えると、やはり何らかの総括はする必要はある」と話す。
「当然、被害者のプライバシーを守らなければならないことは大前提の話で、例えば『補償金の平均額がいくらだったか』『被害者との交渉から示談に至るまでの平均期間』など、“平均”や“中央値”といった表現を使った上で何らかの数字を公表していくことは、どの程度の問題があったのかを説明する意味でも必要であることは間違いないでしょう。原則論で申し上げると、事の大きさからいえば、『すべて解決いたしました』という段階で、ある程度の質疑に答えることが求められると思います。そういった意味では、代表者が会見を行うことが望ましいはず。もちろん『やらなくてはならない』ということではありませんが、質問を受けるという姿勢を見せることが必要なのではないかとは思います」(同)
■被害者への補償問題、「1年以内、長くても2年以内には決着を」
23年10月2日の会見で、SU社は補償業務完了後に廃業する方針であることが明かされている。今年3月14日時点で同社は、補償をめぐり原告または被告となっている民事裁判・民事調停を9件抱えていると発表しており、業務完了の見通しははっきりしていない。
「この先5年、10年かかってしまうと、ますます問題が風化してしまい、被害者はもちろん世間からも『いまさら』という印象を抱かれかねません。訴訟の先が見えない段階で『解決しました』というのは当然、訴えに巻き込まれている方々の立場を考えると好ましくないためになんとも言えませんが、金銭を払う・払わない、お互い納得をするということも大事なことである一方、企業としては前向きに歩み寄りながら極力『早期解決』に向かう姿勢が求められます。それを心掛けながら、できればこの先1年以内、長くても2年以内には決着を目指してもらいたいです」(同)
なお、SU社の代表取締役社長就任により、23年末で現役を引退した東山紀之氏に対しては、廃業後のタレント復帰を期待する声も上がっているが……。
「いち個人の意見としては、この問題に責任者として向き合ったということを次に生かしていただきたいと思います。STARTO社の経営陣に加わるのか、タレントとして復帰するのか、今後の進退についてはわかりかねますが、ご本人のキャリアアップの中でも今回の経験を次の新しい時代に向けたエンタメ事務所運営に役立てていただきたいですね」
■旧ジャニーズ事務所代表・ジュリー氏のインタビュー本発売は「好ましいものとは言いにくい」
一方、「代表取締役」の肩書でSU社に残っているジュリー氏は、7月に刊行したインタビュー本『ラストインタビュー 藤島ジュリー景子との47時間』(新潮社)の中で、叔父であるジャニー氏による性加害について「知らなかった」と発言。ほかにも、母・メリー氏との確執やSMAPの解散騒動、King&Princeメンバーの脱退や滝沢秀明氏の退社なども語っており、また、被害者への補償も完了していないことから、世間からは本の出版自体に批判の声が多く上がっていた。
「経営者が会社を再建していく中でマスコミの取材に応えるということは、新聞や雑誌などのメディアであればよくあることですが、書物として世に出るということはあまり前例がありません。もし書籍という形で自らの言葉を残したかったのなら、ジャニー氏の性加害について『知らなかった/知っていた』ということ以上に何が悪かったのか、経営者の立場であれば問題点を検証しながら調べる手立てはあったはずですから、やはり『反省』を大前提として、まずは性加害問題を軸とした再発防止を誓うような内容にするべきだったのではないかと思います。
例えば、1989年に発覚した『リクルート事件』で逮捕された創業者の故・江副浩正氏は、その後、ご自身の立場から事件を検証する書籍を出されています。その中身は我々が読んでも『なるほど』と新たな気づきや反省が感じられる部分が多くありました。リクルート社や旧ジャニーズなど、やはり“オーナー系”の企業はどうしても力が一点に集中してしまう弊害が出やすいため、“中の人間”の立場から不祥事が起きた背景や原因を洗い直したものを外に公表していく流れはあって然るべきと思います。ただ、今回のジュリー氏のインタビュー本は、言い訳とも受け取れる内容や出版のタイミングも含め、あまり好ましい形で出されたものとは言いにくいでしょう」(同)
■STARTO社は「組織風土、組織文化をもう一度しっかり洗い出すべき」
こうした現状を踏まえ、大関氏はこれからの “課題”を以下のように指摘する。
「STARTO社は、旧ジャニーズ問題を受けて新設された会社ですが、その反省をどう生かしていくのか、教訓としてどう反映されているのか、その部分の見え方が非常に希薄であるなと感じます。ここ最近で問題になっている中居正広氏の一件や、国分太一氏の問題でいえば、どこまで事実かという点を含めて明確になっていないところもあるものの、個人的な感覚で言えば、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントといった悪しき文化が旧ジャニーズ時代から引き継がれたまま、その時代に育ってきたベテランタレントの中に残ってしまっているのではないかと言わざるを得ません。
ジャニー氏との接点がなかったタレント、社名変更後に入所したタレントも含め、組織の風土や文化は、作った本人がいなくなったとしても脈々と残るものです。もし、ハラスメント行為などが肯定されていたような企業風土が厳然として存在したとするなら、社名が変わっただけ、別の法人になっただけで消え去るものではないため、反省材料としてしっかり汲んでいかなければなりませんし、自社の問題点としてしっかり捉え直す必要があると思います」(同)
また、「どちらかというと、私はSU社の対応以上に、STARTO社が『もううちは関係ありません』『事務所を辞めた人間については、もううちは一切関わりを持っていません』というスタンスでいることに疑問を感じる」とのこと。
「自社に長く居たタレントが起こした問題であれば、組織風土、組織文化をもう一度しっかり洗い出した上で、社員に対する再教育であるとか、コンプライアンスを徹底すべきでしょう(同)
ちなみに、SU社は公式サイトの「被害補償の状況」をお知らせするページにて、まだ申告が済んでいない人へ向けて「以下のフォームより、お早めにご連絡をいただけますようお願い申し上げます」と呼びかけつつ、「弊社は、引き続き、被害にあわれた方々のお気持ちに寄り添い、迅速かつ適切な被害救済に弊社一丸となって全力を尽くして取り組んでまいります」と宣言している。
少しでも早く補償が完了し被害を受けた方々の精神的負担が軽減すること、また、再発防止の徹底を願いたいところだ。
取材協力:大関暁夫(おおぜき・あけお)
All About「組織マネジメント」ガイド。東北大学卒。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントの傍ら上場企業役員として企業運営に携わる。
【サイゾーウーマンより】



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