御園との交渉を終えた宮沢は社員たちを集め、提案に応じてフェリックスからの融資を受けたいとの考えを伝えた。坂本はその場にも同席し、陸王継続への思いを熱く語る宮沢を見守っていた。わずかに笑みを浮かべた口元はうれしさを隠し切れないが、目はうるうるして今にも涙をこぼさんばかりに見える。このドラマの中で、風間がこの表情を浮かべるのを何度目にしたことだろう。思えば、ランニングシューズ「陸王」の開発は坂本の一言から始まった。坂本にとっても陸王はある意味“我が子”のような存在であり、こはぜ屋をはじめ賛同者たちが一丸となって熱く取り組んでいる姿を見ていつも胸を熱くしていたに違いない。風間の素直な演技のおかげでそんな坂本の胸中がまっすぐに伝わってきて、思わずテレビの前で目頭を熱くした視聴者も少なくなかったのではないだろうか。
その後坂本は、こはぜの面々とともに茂木裕人選手(竹内涼真)が出場する豊橋国際マラソンの応援に駆け付けた。出走時刻が近付くと、こはぜ屋社員やシューフィッター・村野尊彦(市川右團次)は年季の入ったこはぜ屋のはんてんを羽織り始めた。そろいのはんてんで茂木を応援しようというのだ。坂本も「チーム陸王」の一員としてはんてんを着せてもらい、背中の勝虫(トンボ)の紋を一同に向けてはじけるような笑顔を見せた。同じ頃、希望していた企業との面接に臨んでいた宮沢の息子・大地(山﨑賢人)は、陸王の開発にいかに多くの人が力を貸してくれたのかを熱く語っていた。その筆頭として彼が挙げたのは、「こはぜ屋の将来を思ってくれた銀行員」。言うまでもなく、坂本のことだ。
当初は「足袋屋がシューズなんて作れるワケがない」と反対ばかりしていた大地も、最後には坂本がこはぜ屋にとってどれほど重要な役割を果たしてくれたのかを人に語るまでになっていたのだ。報われて良かったと、心から思える瞬間だったのではないだろうか。
一方、茂木は村野から密かに渡された陸王を履いてマラソンに出走し、ライバルの毛塚直之選手(佐野岳)との激しいデッドヒートの末に優勝を果たす。優勝者インタビューで茂木は、「陸王に込められた作り手の思いが自分を支えてくれた」と発言。最前列でこれを聞いていたこはぜ屋の面々は一様に顔をくしゃくしゃにして涙を流したが、その中でもひときわ号泣していた1人が、坂本だった。
1年後、こはぜ屋は売り上げを飛躍的に伸ばし、巨大な第2工場を建設。社員も3倍に増え、メガバンクの東京中央銀行と取引するほどの企業に成長していた。そして、オリンピック出場の切符をかけた東日本国際マラソンの日がやってきた。さらに改良された陸王を履いて走り始めた茂木をテレビで応援するこはぜ屋社員一同の輪の中に、こはぜ屋のはんてんを羽織って声援を送る坂本の姿もあった。
振り返れば、このドラマには“スーパーマン的”な存在はおらず、皆それぞれの立場で必死にもがき、より良い明日のために奮闘していた。失敗を繰り返してもそれを糧とし、決してあきらめない者が最後には勝つ。風間が熱演した坂本という人物は、ドラマ全体を貫くそんなテーマにぴったりと当てはまっていた。銀行員としても投資会社の社員としても決してずば抜けて優秀ではない坂本の姿に、逆に励まされたという人もいただろう。「3カ月間にわたる感動をありがとう」と言いたいものだ。
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